結婚前に婚前契約書を作成したり、結婚後に夫婦間で覚書を交わしたりすることがあります。
「法的効力がある」と聞くと、その内容は必ず守られ、将来も変更できないと思われる方もいます。しかし、実際の法的効力はもう少し複雑です。
婚前契約書や覚書は、内容や利用される場面によって効力の現れ方が異なります。
法的効力とは何か
法的効力とは、その文書が法律上意味を持ち、当事者の権利や義務に影響を与える可能性があることをいいます。
もっとも、法的効力があるからといって、その内容が将来どのような場合でも必ず実現するという意味ではありません。
婚前契約書や覚書は、協議離婚、公正証書、離婚調停、離婚訴訟など、それぞれの場面で異なる役割を果たします。
婚前契約書や覚書は有効か
婚前契約書も、婚姻中に作成した覚書も、夫婦双方が合意して作成したものであれば、原則として有効です。
もっとも、法律や公序良俗に反する内容は無効になります。
また、2026年4月1日施行の民法改正により、婚姻中の夫婦間契約を一方的に取り消すことができる制度(旧民法第754条)は削除されました。そのため、現在は夫婦間で交わした覚書についても、一般の契約と同様の考え方に基づいて法的効力が判断されます。
離婚時の条件をあらかじめ決めることはできるか
婚前契約書や覚書には、離婚した場合の条件を定めることもできます。
例えば、財産分与の方法、慰謝料、住宅ローンの負担、自宅の処分方法などについて取り決めることは可能です。
もっとも、その内容が将来そのまま実現することまで保証されるものではありません。
協議離婚で公正証書を作成した場合
実際に離婚することになれば、その時点で夫婦は改めて離婚条件を協議します。
そして、合意した内容を離婚協議書や離婚公正証書として作成することになります。
この場合、実際の権利義務を定めるのは、その時点で双方が合意した離婚協議書や離婚公正証書です。
婚前契約書や覚書は、離婚条件を検討する際の資料となることはありますが、自動的にその内容が採用されるわけではありません。当事者が異なる内容で合意すれば、その最終的な合意が優先されます。
離婚調停になった場合
離婚調停では、婚前契約書や覚書を資料として提出することはできます。
しかし、調停は当事者双方の合意によって成立する手続です。そのため、婚前契約書や覚書の内容がそのまま採用されるとは限りません。
最終的な権利義務は、調停で合意した内容を記載した調停調書によって定まります。
離婚訴訟になった場合
離婚訴訟では、婚前契約書や覚書は証拠の一つとして扱われます。
裁判所は、その文書をもとに、当事者がどのような意思で取り決めをしていたのかを判断材料の一つとして検討します。
もっとも、裁判所は婚前契約書や覚書だけで判断するわけではありません。婚姻期間、財産状況、離婚に至る経緯、双方の生活状況など、離婚時のさまざまな事情を総合的に考慮して判断します。
そのため、婚前契約書や覚書の内容が、そのまま判決に反映されるとは限りません。
公正証書にする意味
離婚時に合意した内容を公正証書にしておくと、その合意内容を明確に残すことができます。
特に、慰謝料や養育費などの金銭の支払いについて強制執行認諾文言を付けた公正証書を作成すれば、支払いが滞った場合には、一定の要件のもとで裁判を経ることなく強制執行を申し立てることができます。
一方で、婚前契約書や婚姻中の覚書を公正証書にしていたとしても、離婚時に当事者が別の内容で合意すれば、その最終的な合意に基づいて離婚公正証書が作成されます。
まとめ
婚前契約書や覚書は、夫婦間の合意として法的な意味を持つ文書です。
ただし、その効力は利用される場面によって異なります。
協議離婚では、その時点で夫婦が合意した離婚協議書や離婚公正証書が最終的な権利義務を定めます。調停では調停調書が優先されます。訴訟では、婚前契約書や覚書は当事者の意思や経緯を示す証拠の一つとして評価されます。
婚前契約書や覚書は、将来の結果を決める絶対的な文書ではありません。しかし、当事者の合意内容を明確に残し、将来の話し合いや紛争において重要な資料となるという点で、大きな意義があります。
