不倫離婚の行政書士 木下です。離婚するか、しないかの気持ちが固まっていない段階で次の話をするのは忍びないですが、重要な話なのでお話しします。
【感情のまま返事をしない】
離婚を切り出す側は、すでに気持ちを固めています。
準備を進めてきた期間があるため、話の展開も落ち着いています。一方、切り出された側は、その日はじめて事態を知ることになります。
だからこそ、今すべきことは、修復するにしても、離婚を選ぶにしても、自分の意思で決められる状態を作ることです。切り出された側に必要なのは、判断のための材料を自分の手元にも持つことです。
感情が乱れるのは当然です。ただ、その最初の一歩の誤りが、この先の状況を不利にします。
「今日中に決めてほしい」「サインしてくれたら終わりにする」といった言葉で、その場での即答や署名を求められることがあります。
強く迫られた状態でのサインは、後から取り消せる場合もありますが、そのときどんな状況で署名したかを証明するのは簡単ではありません。口頭でのやり取りだけでも、後の話し合いで「一度は同意した」として扱われることがあります。
その場で答えを求められたときは、次の一言だけで十分です。
「大事なことだから、少し考える時間がほしい」
この一言に、条件も理由も必要ありません。相手が重ねて答えを迫ってきても、同じ言葉を繰り返すだけで構いません。時間を確保することが、この段階での唯一の目的です。
考える時間を確保したあとにすべきことは、修復と離婚のどちらを選ぶ場合でも共通しています。
【事実関係を書き出す】
まず取りかかるべきは、事実関係を書き出すことです。
不倫にいつ気づいたか、配偶者からいつ離婚を切り出されたか、その日の状況を記録します。記憶は時間が経つほど薄れ、話し合いが長引くほど「いつ」「何が」あったのかがあいまいになっていきます。
メモの形式にこだわる必要はありません。スマートフォンのメモアプリでも、手書きのノートでも構いません。ただし、【書き込む場所は1つ】に決めてください。あちこちに分けて書くと、後で見返すとき、まとめるときに必ず抜け落ちます。
書く内容は、まず事実だけを時系列に並べます。
いつ、どこで、誰が、何をしたか。「〇月〇日、配偶者から離婚したいと言われた」「〇月〇日、スマートフォンの履歴で気づいた」というように、起きたことをそのまま書きます。評価や推測を混ぜず、事実だけを書くのがポイントです。
事実を書いたら、そのときどう感じたかも一言添えてください。「ショックだった」「言葉が出なかった」で構いません。この一言が、後になって大きな意味を持ちます。
調停になった場合、自分の言い分を調停委員に伝えるための「陳述書」という書面を提出します。陳述書は、時系列の事実に加えて、そのときの気持ちを添えることで、調停委員に事情が伝わりやすくなります。
弁護士が依頼者に「そのときつらかったことは何ですか」とあえて聞くのも、この気持ちの部分を書面に落とし込むためです。日々の記録に事実と気持ちの両方を残しておけば、後で陳述書に整える作業がぐっと楽になります。
【経済状況を把握する】
別居後や態度が変わった後に、公的な調査手段に頼る場合、その手段には限界があります。
調査嘱託(裁判所が金融機関等に照会する制度)は、すでに調停や訴訟が始まっていないと使えません。弁護士会照会も、金融機関に回答義務はあるものの、最高裁平成28年判決で「回答を拒否しても不法行為にはならない」とされています。
実務上も、顧客の同意がない限り回答に応じない金融機関が多いと、弁護士自身が解説しています。弁護士に依頼すれば必ず調べ上げてもらえる、という期待も禁物です。
外部の専門家や機関に任せれば何とかなる、というものではありません。今、同居している間に自分の目で確認できることが、もっとも確実な方法です。
確認する範囲は、家庭ごとの財産状況によって変わります。
ただし、多くのケースで共通して確認しておくべき項目は、次の通りです。

「だいたいこのくらい」では、後で意味を持ちません。口座番号まで分かっていれば、後から過去の取引履歴を遡って調べられる可能性が上がり、不自然な引き出しや移動があった場合の裏付けにもなります。
曖昧な記憶ではなく、通帳や証書そのものを確認しながら、数字と番号を正確に書き写してください。上記で決めた1つの記録場所に、この情報も書き加えてください。
確認した情報は、財産目録にまとめます。
財産目録とは、銀行名・支店名・口座番号・残高、保険の証券番号、不動産の名義といった項目を、一覧の形に整理したものです。
書き方に決まりはありません。上記で決めた記録場所に書き足していた情報を、この段階で一枚の表にまとめ直します。
財産分与の見込みについては、2026年4月に施行された改正民法768条3項で、夫婦がその財産をどれだけ築いたかの寄与度は、原則として等しいとする「2分の1ルール」が条文に明記されました。
財産目録にまとめた財産の合計額を、まずは半分ずつという前提でざっと見ておくのが、今の段階での粗い基準です。
分けて考えていただきたいものがあります。
年金分割です。年金分割は、婚姻期間中の厚生年金の記録を夫婦で分け合う制度で、財産分与とは法律上別の手続きです。財産目録には含めず、別枠として扱ってください。
漢字が多くなります。申し訳ありません。
財産目録の作成、退職金や保険など評価額の計算は、ケースによって難しさが変わります。ここから先の精緻な計算や書類化は、専門家に任せる段階です。ただし精度は高まりますが、将来給付についての確定額までを出すことは困難です。計算と受給額との差は当然生じます。
お金の動きは、多くの場合、通帳に出ます。
相手名義の通帳に目を通せる状況にあれば、毎月少しずつ引き出されている履歴、見覚えのない口座への送金、給与額に対して不自然に少ない残高がないかを確認してください。
財産分与で問題になる残高は、別居時か離婚時のいずれか早い時点のものです。今の通帳のコピーや写真が、その基準日の証拠になります。
株や投資信託をネット証券で、家計をスマホの資産管理アプリだけで管理している場合、紙の記録が残らず、通帳を見るだけでは全体をつかめません。この場合は、把握している口座からの送金履歴や、年に一度届く証券会社からの郵便物が手がかりになります。
それでも見つからない部分は、個人で調べられる限界を超えています。無理に踏み込まず、専門家への相談に切り替えてください。
負債についても、注意点があります。CIC・JICC・KSCという3つの信用情報機関は、いずれも本人しか開示請求ができません。配偶者が無断で相手の借入状況を取り寄せることはできません。(例外は法定代理人(親権者・後見人)、本人が亡くなった場合の相続人)
確認できるのは、通帳の引き落とし履歴にカード会社や消費者金融の名前がないか、督促状やカードの利用明細が自宅に届いていないか、というところまでです。
毎月の収入と支出という、お金の流れも押さえてください
見るべきものは2つです。
・毎月の収入 給与、養育費や年金分割の見込み額
・毎月の支出 家賃、生活費、教育費
財産分与や慰謝料、そして離婚にかかる専門家費用や別居費用は、離婚が成立する前後にまとまって発生する一時的なお金です。これは毎月の収支には含めません。ここで見るのは、そのあと毎月の暮らしが回るかどうかだけです。通帳の入出金を数ヶ月分見返すと、毎月の収入と支出のおおよそがつかめます。
収入から支出を引いて、赤字か黒字か、赤字ならどのくらい不足するかを、大まかにでも数字で見ておいてください。数字にしてみると、修復と離婚のどちらを選ぶにしても、今何を準備すべきかが見えてきます。
【証拠になり得るものを保全する】
不倫の証拠は、慰謝料請求や離婚協議の場面で意味を持ちます。
まず残しておきたいのは、自分が正当にアクセスできる範囲のものです。共有で使っているLINEやメールのやり取り、ホテルや飲食店のレシート、クレジットカードの利用明細、日々の記録として書き留めてきたメモ。これらは、集めること自体に問題はありません。
見つけたら、そのままにせず、写真やスクリーンショットで手元に残してください。相手の端末に入っている情報は、あとで消される可能性があります。上記で決めた記録場所に、日付とあわせて残しておくと、後で見返したときに状況が分かります。
民事裁判では、証拠の集め方に多少の問題があっても、証拠そのものが使えなくなることは多くありません。
民事訴訟法は証拠能力そのものを制限しておらず、収集方法が著しく不適切な場合に限り、例外的に証拠として採用されないことがあるにとどまります。
一方で、集め方によっては、証拠が使えるかどうかとは別に、集めた本人が法的な責任を問われることがあります。
相手のスマートフォンのパスワードを無断で解除して中身を見る行為は、不正アクセス禁止法に触れるおそれがあります。相手のカバンや車にGPS機器を無断で取り付ける行為は、プライバシー侵害にあたると判断した裁判例があります(旭川地裁令和6年3月22日判決)。別居中の相手の自宅に無断で立ち入って証拠を探す行為は、住居侵入にあたるおそれがあります(刑法130条)。
自分で集められる証拠だけでは、不貞の事実を裏付けるには弱いことがあります。この場合の選択肢として、探偵への調査依頼があります。費用は幅があり、疑いが生じてから時間が経つほど、証拠を押さえにくくなります。検討するなら、早めに動くほうが有利です。探偵の調査報告書は、写真や動画とともに事実関係が記録されており、裁判でも証拠として使われています。
何が証拠として有効か、探偵に依頼すべきかどうかは、状況によって判断が分かれます。慰謝料請求に足りる証拠かどうかの見極めは、弁護士の領域です。自分で判断して踏み込む前に、弁護士に確認しながら進めてください。
【話し合いを一人で抱え込まない】
修復と離婚の気持ちは、一度決めたら変わらないものではありません。
証拠を目にした直後、生活費や住まいの状況を確認した後、離婚条件を聞いた後、夫の態度を見た後、この先の生活の見通しが見えてきた後。
それぞれの局面で、気持ちは動きます。現実を知って離婚に傾くこともあれば、条件や見通しを見て踏みとどまることもあります。どちらに動いても、おかしなことではありません。
何が決め手になるかは、夫婦それぞれの状況によって変わります。これまででお話ししてきたのは、多くの方に共通する一般的な内容です。ここから先、実際の話し合いをどう進めるかは、一般論では書ききれない部分に入っていきます。
夫との話し合いの実務的な進め方
離婚を切り出された側は、夫のペースで話し合いが進みやすい状況にあります。日時も場所も、夫が先に決めてくることが少なくありません。まず、日時を夫の都合だけで決めないでください。自分の考える時間を確保できる日を、こちらから提案してください。
証拠を集め終えたら、それを夫に突きつけて問い詰めるべきか迷う方がいます。結論から言うと、事実として押さえた証拠を提示することは、有効な手段です。証拠を見せられた夫が、それ以上ごまかせないと判断し、話し合いが一気に前へ進むことも少なくありません。
一方で、証拠を見せても開き直る夫もいます。認めない、居直る、話をすり替える。この反応自体に、落ち込む必要はありません。証拠を突きつける目的は、夫に反省させることではなく、事実を認めさせ、次の話し合いに進む土台を作ることです。
ただし、「バラされたくなければ払え」のように金銭要求と結びつけた言い方は、恐喝と受け取られかねません。事実の確認と要求は、分けて伝えてください。
話し合いの内容は、口頭だけで終わらせないでください。LINEやメールなど、文字に残る形でやり取りし、話した内容を自分でも記録しておいてください。その場ですべてを決めようとせず、ある程度話が進んだところで「一度持ち帰って考える」と伝えて構いません。
この話し合いで誰に何を頼めるのか
弁護士はあなたの代わりに戦ってくれる人です。
行政書士はあなたが判断できるようにする人です。
この違いを知っておくと、誰に何を頼めばよいかが分かりやすくなります。
夫との交渉を、報酬を払って誰かに代わってもらえると考える方がいますが、これができるのは弁護士だけです。弁護士以外の者が、報酬を得て相手方との交渉を代行することは、弁護士法72条により禁じられています。
家族が話し合いに同席したり、相談に乗ったりすること自体は問題ありません。実際、実家の親や兄弟姉妹が同席するケースは珍しくありません。ただし、同席や相談はできても、最終的にどう答えるかを決めるのは本人です。家族の意見に押し切られて、自分の意に沿わない結論に流されないようにしてください。
